最後の授業

「帝国・国民・言語」平田雅博+原聖編(三元社)

 

ドーデの月曜物語の中にある「最後の授業」、これはキュリー夫人が子供の頃に帝政ロシア下のポーランドの学校で経験したロシア語の押し付けとは違うもの、むしろ真逆であると思い込んでいた。アルザスの子供たちはドイツ語の方言とも言えるアルザス語が母語なのだから、学校でフランス語の授業がなくなるのはごく自然なことであり、アメリ先生の最後の授業での言葉は欺瞞そのものと単純に理解していたのだ。

 

上に挙げた本の第五章、「アルザスユダヤ人の「同化」と言語ー19世紀前半の初等教育政策を例にしてー」(川崎亜紀子)を読むと、19世紀のアルザスの言語状況はそのように単純では無いようである。アルザスの地が、神聖ローマ帝国からフランス領(領土という概念は要注意)となって既に200年近く時間が経過しており、アルザス母語の人々のフランス語の受入も相当程度進んでいたと思われる。また、フランス政府はアルザス初等教育学校においてドイツ語を全く排除していなかった様なのである。その一方で母語であるアルザス語は(アルザスイディッシュ語と同様に)文化的でないということで撲滅が図られていたらしいのだ。

 

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