羊をめぐる冒険

久しぶりの再読中。すっかり忘れていたのだけれども、「名前のあるものと無いもの」をめぐる、主人公とボスのショーファーとの会話が興味深い。哲学的なトーンを帯びた言語学の意味論的議論。

「船には名前があるのに、飛行機には何故名前がないのか?」この問いにはロジカルな解答があり、それほどおもしろくはないのだけれども、名前を付けることにより意識が吹き込まれるという感じはまさにその通りなのだ。ではなぜ名前を付けると意識が吹き込まれることになるのか?番号だけの世界だと、すべての単位は平等でのっぺらぼう、誤解も妥協もない世界だ。でも一旦名前が付けられると、各人が自分勝手にその名前の意味合いを膨らませたり変形するけれども、オトとしての名前は「同じ」。だから誤解も生じるし、挙句の果てには戦争だって起きてしまう。そういう営みの元がこそが意識であり、意識と意識がぶつかり合うのが社会なのだ。
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