「<イスラーム世界>とは何か 「新しい世界史」を描く」羽田正(講談社学術文庫)

これほどまでにラディカルで自身の研究に対して建設的且つ批判的になれる歴史学者を私は知らない。

イスラーム世界」の意味するところを真摯に探究し、一定の手応えを感じて本書のオリジナルが出版されたのが2005年。それから15年後の2020年末に文庫本化される際に付け加えられた補章「「イスラーム世界」とグローバルヒストリー」が素晴らしい。「イスラーム世界」という概念はそれ自体が一つのイデオロギーであると指摘した過去を振り返り、「イスラーム世界」という日本語のターミノロジーと他言語の相応する「イスラーム世界」の意味するところは異なる可能性を指摘し、本テーマがまだ道半ばであることを正直に吐露いている。

 f:id:msugioka:20210512213504j:image